近年、調剤薬局のM&Aが増え、度々話題となっている。
これは1,200社あった医薬品卸がどんどんと倒産やM&Aを繰り返すことで減少していき、100社程度になっている流れから調剤薬局もいずれは倒産またはM&Aで社数は減っていくと容易に考えられた将来である。
その流れは前々から確かにあったのだが、コロナ禍を背景に保険医療の寿命は短くなったのかもしれない。
保険薬局にとって生殺与奪の権を握っている【調剤報酬】
2年に1度改訂されるが、上がることは珍しく、業務が増えるか報酬が減るという悪い流れである。
ドラッグストアは保険外収益もあるが、調剤薬局の多くは調剤業務がメインではないだろうか。
中小チェーン薬局でも、医療コンサルタント業務などの他の収益柱を持っている調剤薬局は経営面ではそこまで苦しくなっていないという話も耳にする。
保険薬局事業もやっている大手卸企業は卸である強みを使ってか、Amazon.jpで売れ筋人気商品を販売している。
私が数年前にAmazon.jpで販売代行していた商品は1商品で月に150~200万円程、広告費は0円で売り上げていた。
作業は納品された箱にただシールを貼り、Amazon倉庫に横流しするだけで売れていくドル箱商品であった。
現在はメーカーから卸してもらえなくなった影響で取り扱いはしてない。
しかし、久しぶりに商品ページをみると大手卸がAmazonへのFBA販売に参入していることに気づいた。
現在、その商品はそこの企業がメインで販売している。
このように、保険調剤以外での収益柱を立てようと動いている調剤業界の企業が増えてきているように思う。
中には、PB商品を作って販売している薬局もあるが、ノウハウがないまま作ってしまい不動在庫を大量に抱えてしまったという話も耳にする。
しかし、保険外収益で新規事業を作るためであれば、必要な挑戦だと考えられる。
新規事業に投資をして育てるというのは、簡単ではない。
多くの調剤薬局は個人レベルでやっているところが多く業界全体の7割近くは個人薬局と言われている。
経営者の高齢化も進む一方でDX化や時代の流れに柔軟に対処できますか?というと難しいかもしれない。
※今でも電子薬歴ではなく、紙薬歴の薬局もある。
近年、コロナ禍をきっかけとした世間から医療業界への風当たりが強くなってきていることと政府の医療費削減、
これらの影響か医師に対する診療報酬も2024年から減点される。
医療業界というのは、社会保険料などの税金が財源なので
比較的、デフレには強い職業である。
(株式市場で医療業種はディフェンシブ株とされる)
以前、不動産に関する記事をいくつか書いたが、その時に
【今後の想定される政府の思惑】について触れた。
その際、政府はマイナス金利解除(利上げ)をしたい。
しかし、それだけでは国債の金利も上がってしまうので
「円の価値を下げるためにインフレを作るだろう」と紹介した。
現在は物価高に国民の給与所得アップがついてきていないのでインフレとは言い切れない状態である。
(※物価高に経済成長がついていかなければ、スタグフレーションである。)
今後、政府の後押しで賃金アップが行われていくとした場合、インフレとなるので斜陽産業の薬局業界は少し置いてけぼりになるかもしれない。
開業医に関しては、【租税特別措置法第26条】と呼ばれる年間総売り上げが5,000万円以下であれば実際に使った経費以上の経費計上が認められ、税金を抑えることができるというものがある。
これは開業医の経営を安定化させるためにできたもので、年間売上が2,000万円の医院であれば、1,440万円までを経費として計上できる。
開業医は個人で小さく生き残っていくことはできるかもしれないが、今後の開業医が制度利用で生き残る方向に進むと門前薬局は生き残れない。
今回の改訂から*精神科クリニックが診察患者数に応じて30分以上の診察などが掲げられたため、この制度利用をする開業医が増えるかもしれない。
*患者20人に1人以上は30分診察
*毎月10人以上は60分以上診察
調剤薬局の大手チェーン(業界3位)であった
【さくら薬局】(クラフトファーマシー)
がM&Aで失敗し、経営破綻したのは記憶にも新しいはずである。
一時期は上場もしていた1,000店舗以上を超える大手調剤薬局。
2022年2月に【事業再生ADR】を申請。
これはM&Aを繰り返すために50以上の銀行から融資を受けて規模拡大をしていたが、返済ができなくなり破綻したというもの。
調剤報酬の改悪は通常通りのことだが、根本的なトドメを刺された原因はコロナウイルスによる自粛と考えられる。
2024年頭で言えば、阪神調剤(I&H)がスギHDに買収された。
この阪神調剤(I&H)も過去に上場している。
上場企業は資金調達が市場からできるが、非上場になっている場合、銀行から見切りをつけられると自身で売上を立てて、生き残れなければ詰んでしまう。
調剤薬局業界のM&Aも相場としての最高値は既に過ぎており、売り抜けるためには個人レベルではなく、ある程度の店舗数や売上が必要になるという噂も耳にする。
・DX化についていけない高齢薬局の廃業
・調剤報酬減による廃業
・敷地内薬局に対する改訂
個人薬局だけではなく、大手調剤専門薬局も安心してはいられない状況が近づいてきていると考えられる。
おそらく、今後の調剤薬局の【出口戦略】は
①自身で保険外収益を作り出す
②ミニマムで小さく生き残る
③中規模化してM&Aで売却
などになるのではないだろうか。
保険外収益を作るというのも、経営的に余裕があるうちにしかできないことなので、首が締まりかかってきた状況では、勇気も出せず②の施設・在宅特化などで生き残る薬局が増えるのだろうか。